不動産賃貸

よくある敷金返還トラブル

民間の賃貸借契約は、退去時に貸した側と借りた側のどちらの負担で原状回復を行うことが妥当なのかについてトラブルが発生することが比較的多いといえましょう。
裁判事例なども参考に国土交通省が「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」として示している内容が基本となるでしょう。

基本はガイドライン

(1)原状回復とは

原状回復の意味を「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」とし、賃借人が借りた当時の状態に戻すことではないことを明確にしました。したがって原状を回復するための費用は賃借人の故意・過失を主にした通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損費なので賃借人負担としています。
そして、いわゆる経年変化、通常の使用による損耗等の修繕費用は、賃料に含まれるものとしていますから、賃貸人負担となります。

(2)「通常の使用」とは

A:賃借人が通常の住まい方、使い方をしていても、発生すると考えられるもの
⇒この場合は、賃貸人の負担となります。

B:明らかに通常の使用等による結果とは言えないもので、賃借人の住まい方、使い方次第で発生したり、しなかったりすると考えられるもの
A(+B):基本的にはAであるが、入居年数が長くなるとその後の手入れ等賃借人の管理が悪く、損耗等が発生または拡大したと考えられるもの
⇒上記、B及びA(+B)については原則、賃借人に原状回復義務があるとしています。
※ただし、B及びA(+B)には経年変化や通常損耗が含まれているため、これらの費用を考慮することと、経過年数の考慮(建物や設備の経過年数)し、年数が多いほど賃借人の負担割合を減少させるのが適当とされています。

判例にみるトラブルと判決

国のガイドラインに添う判決の傾向が示されています。

契約時に特約あり

京都地裁 平成16年3月16日判決
トラブル概要
敷金20万円。原状回復特約に基づく原状回復費用を控除すると返還すべき敷金はないこと及び原告は建物明渡しの際に原状回復費用を控除すると返還すべき敷金はないことを了解したと主張し、これに対し、原告は上記原状回復特約は無効であると主張するとともに上記了解を否認した事案。

判決概要
(1)消費者契約法施行前に締結された建物賃貸借契約が同法施行後に当事者の合意により更新された場合、更新後の賃貸借契約には消費者契約法の適用がある。
(2)建物賃貸借契約に付された自然損耗及び通常の使用による損耗について賃借人に原状回復義務を負担させる特約は消費者契約法10条により無効である。

以上から敷金20万円の全額返還を賃貸人に命じた。

契約時に特約なし

川口簡裁 平成9年2月18日判決
トラブル概要
敷金14万2千円。特約はない
賃貸人は、ルームクリーニング、畳替え・クロス張り替えの工事行ったとして敷金を返還しなかった。

判決概要
賃借人は夫婦共稼ぎでたばこも吸わず、入居期間中賃料、公共料金等の未払いも一切なく、退去の際は普通に掃除をして引き渡した事などから、社会通念上の通常の使用をされたものと推測され、自然損耗以上にいたんでいると認めるに足りる証拠はないとして、敷金の全額返還を賃貸人に命じた。

敷金トラブルの傾向と対策

「原状回復義務」に関する考え方で、入居者と大家さん(仲介業者)のズレは少しずつ変わってきており、経年変化による損耗は大家負担と考えるようになってきているようです。
少し前まで、貸し手側が強気で借り手が泣き寝入りすることもありましたが、借り手市場になっている今は、以前よりも貸し手側が負担してリフォームするケースが増えているように見受けられます。

いっぽう現在判例となっている敷金トラブルの多くは、敷金をはるかに越えた多額の負担金額に驚いた賃借人が声を上げたことによるものがほとんどです。しかしこれは、氷山の一角に過ぎず、実はトラブルにこそなっていませんが、敷金以内でおさまってほっとしている人の多くが、支払う必要の無い多額の負担金を支払わされていることに気づかずに見過ごしてしまっているというのが現実なのです。

とくに原状回復の問題は、賃貸借契約における「退去時の問題」と捉えられがちですが、じつは「入居時の問題」と捉えるべきなのです。借り手側も「原状回復義務」について基本を知らなければなりません。

  1. 契約時に原状回復などの契約条件を当事者双方がよく確認し、納得したうえで契約を締結する。
  2. 契約条件に照らし入去時に建物・室内・設備の損耗等の有無など物件の状況をよく確認しておくこと。
  3. 退去時も損耗等の有無など物件の状況を当事者双方でよく確認しあうこと。

このようなことがトラブルを未然に防止するためには有効であると考えられます。

書式及び参考資料

注意事項

利用者の皆様に提供する回答は、弁護士の法的助言にかえることはできません。あくまで、ご自身の判断の一助にしてください。