交通事故

交通事故のグレーゾーン

2006年の過失がもっとも重い(過失が同程度の場合は被害がもっとも軽い)第1当事者の法令違反別の交通死亡事故発生件数は,脇見運転(13.7%),漫然運転(13.6%),運転操作不適(10.1%)の順となっています。

そして、これらの交通事故の中には、加害者に責任がなく、損害賠償責任を負わなくてもよいグレーゾーンのケースが存在しています。

こうした損害賠償責任の例外として、自動車損害賠償保障法(自賠法)は、以下の三つの要件を挙げています。すなわち、自動車の運転者が自動車の運転に関して注意を怠らなかったこと、被害者または運転者以外の第三者の故意や過失で事故が生じたこと、自動車に構造の欠陥または機能の障害がなかったこと、の三つがそれです。そして、これらの3要件の立証に成功すれば、加害者は賠償責任を免れることができます。さらに、事故が天災などの不可抗力によるもので、自動車の運行によって発生したとは言えないことを加害者が立証できた場合も、同様に賠償責任を免れることができます。

また、車を運転中に自動車強盗に襲われ、逃げようとして相手を轢いてしまったなど、事故が不法行為に対するやむを得ない正当防衛行為の結果として発生した場合においても、加害者は損害賠償責任を免れることができます。

一方、民法では、これらの3要件が立証できなかった場合でも、被害者側にも交通事故の発生に対して何らかの過失責任があるような場合は、損害賠償の額を定める際にこれを斟酌すると規定しています。たとえば、横断禁止の道路を渡っている歩行者を轢いてしまった場合などでは、明らかに歩行者側にも過失があったと見なされ、損害賠償額が減額されることになります。

「過失相殺」は、このように交通事故の発生に関して被害者側にも何らかの過失責任があった場合、被害者への損害賠償額の算定にあたって、被害者の過失が事故発生に寄与した割合を算定して、その割合に相当する額を減額するものです。

たとえば死亡事故では、その過失割合に応じて0、20、30、50%の四段階が減額され、一方、傷害事故では0、20%が減額されます。具体的な例としては、歩行者が信号機のある交差点の横断歩道を青信号で横断中に車に轢かれてしまった場合、歩行者の過失は0%ですが、かたや歩行者が赤信号で横断しており、一方、車が青信号だった場合は歩行者側の過失は70%、黄信号では50%、赤信号では20%となります。

こうした過失相殺の基準の算定に関しては、日弁連交通事故相談センターの「交通事故損害額算定基準」や東京三弁護士会交通事故処理委員会編「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」など、第三者機関による一定の算定基準が定められています。一方、任意保険では、保険会社が独自の主張で過失割合を決定。これに被害者が不服の場合には、第三者である裁判所や調停委員などが過失割合を算定。かたや自賠責保険では、細かい状況を問わずに一定額が減額されます。

また、一般的に示談が成立すると、被害者は以後一切の賠償請求を行えないはずですが、示談の成立後に被害者に予期せぬ後遺症が出てしまった場合は損害賠償のグレーゾーンです。こうしたケースにおける判例では、示談後の後遺症に対しても加害者は損害賠償をする必要があると定められており、一方、被害者が示談で将来の後遺症を含めたすべての損害賠償請求権を放棄するという意思表示をしていたケースでは、示談後の後遺症の損害賠償を求めることはできないとされています。

また、時効も交通事故にまつわるグレーゾーンです。交通事故で傷害や死亡などの人損、建造物損壊などの物損といった被害を受けた被害者やその遺族は、加害者に対して民法の定めに基づいて損害賠償を請求することができます。ただし、ここで忘れてはならないのは、こうした損害賠償請求には、民法によって時効が設けられているということです。

たとえば、交通事故の被害者やその家族は、加害者の誠実な対応が期待できない場合などにおいて、自動車損害賠償保障法(自賠法)に基づき、加害者が加入している自賠責保険の損害保険会社に対して直接、損害賠償請求を行うことができます。

しかし、交通事故の保険金に対する請求権は、民法の規定により通常起算日から3年間で時効によって消滅してしまいます。起算日とは、交通事故の被害者またはその法定代理人が、加害者の違法行為によって損害を受けた事実を知った時を意味し、通常は事故発生時がこれに当たります。

一方、ひき逃げなどで加害者がどういう人物か分からない場合,民法では不法行為である事故の時点から20年で損害賠償請求権が消滅するとされています。 また、交通事故による後遺症に対する損害賠償請求権は、後遺症の症状固定日から3年間で時効によって消滅するとされています。

このように交通事故の被害者による損害賠償請求権は、最短3年で時効が成立してしまい、その後は請求できなくなってしまうので、時効完成前になんとしても請求を行う必要があります。ただし時効完成前であれば、時効中断措置をとることで時効を中断することができることもできるということも覚えておいていただきたいと思います。

(注)『交通事故損害額算定基準』 俗に言う「青本」 日弁連交通事故相談センター編・刊
(注)「民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準」(東京三弁護士会交通事故処理委員会・(財)日弁連交通事故相談センター東京支部共編、いわゆる赤本)
(注)利息の計算には、ライプニッツ式とホフマン式があり、一般的にはライプニッツ式(年5%)が採用されている。

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