医療

医療過誤のグレーゾーン

不幸にも医療事故に会ってしまったが、果たしてそれが医療過誤かどうか判別できないため、病院側を訴えてよいか分からない、といった医療事故の被害者が多く存在します。医療事故に会ってしまった被害者は、いったいどうすれば医療側の責任を追及することができるのでしょうか。

医療過誤の加害者である医療側には。国の課す業務上過失致死罪などの刑事責任や、医師免許取り消しなどの行政責任にくわえて、民法に定める民事責任が問われます。この民事責任には、不法に被害者に損害を発生させてしまった「不法行為責任」と医療契約違反としての「債務不履行責任」があり、医療過誤を起こした医療施設の開設者、医師や看護婦などの当事者は連帯責任を負い、患者側は後遺症に対するなどに対する損害賠償を請求することができます。

ただし、ここで問題となるのは、起こってしまった医療事故が医療過誤にあたるかどうかです。

医療事故には、医療側が責任を負わなくてもよいグレーゾーンが存在します。

医療行為においては、治療中に患者の容態が急変して、死亡してしまったりする事態は避けられません。どんなに優れた医師でも最悪の事態を避ける手段を完璧に講ずることは事実上不可能であり、たとえ最善をつくしても、結果は保証できないというのが医療行為の持つ特質なのです。

こうした特質を持つ医療行為において、医療の遂行過程で起きてしまった人身事故が医療過誤と認定されるには、いくつかの法的構成要件を必要とします。

医療事故が医療過誤と認定される第一の法的要件は、事故が医療従事者の過失や怠慢によって発生したかどうかです。ここで言う過失や怠慢は具体的には注意義務違反をさし、医療事故が医療過誤とされるには、医療遂行過程において医療従事者が医療的準則に違反して十分な注意を怠ったかどうかが問題となります。

たとえ医療事故が起こってところで、事故が医療従事者の過失や怠慢を原因とせず、患者の容態の急変などの不可抗力が原因で起きてしまった場合は、医療従事者は注意を怠ったとはいえず、事故は医療過誤とはされません。

また、医療従事者の過失や不注意によって患者が病院内で事故に遭って死傷してしまった場合、患者は病院に対して不法行為あるいは契約債務不履行として損害賠償を請求することができます。しかし、もし病院側が患者の事故防止のための適切な看護をしており、過失や不注意を犯していなかったことが証明されれば、病院側に責任は発生しません。

医療過誤の第二の法的構成要件は、医療事故が医療内容と因果関係にあるかどうかです。たとえば、がんで治療中の患者が持病の心臓病の発作で死亡してしまった場合、医療事故の発生原因は医療行為とは無関係です。また、たとえ事故が医療内容と関係があったとしても、手術中に弱った臓器から大量出血してしまい、医師が血止めなどの適切な処置を行ったにもかかわらず患者が死亡してしまったような場合も、事故と医療内容の因果関係は否定され、医療過誤の範疇から外れることになります。

医療過誤の法的構成要件の第三は、医療従事者の過失や怠慢の結果、患者に身体的または心的損害を発生させてしまったかどうかです。

たとえ医師や看護婦などの医療従事者が十分な注意を怠って過失を起こしたところで、その結果として患者に身体的または心的損害が発生していなければ、医療過誤にはなりません。たとえば医師が誤った薬を患者に処方してしまったものの、看護婦が気付いてすぐに処置を施した結果、患者に被害はなかったといったような場合は、医療過誤はもちろん、医療事故にもなりません。

誤ってこうしたケースを医療事故と呼ぶ人も多いのですが、正確にはこれらはヒヤリハットであり、医療事故ではありません。もちろんこうしたケースでは、医療従事者に責任はなく、被害者は医療機関を訴えることはできません。

また、医療過誤にともなうもう一つのグレーゾーンとして時効の問題があります。

医療従事者の医療過誤によって患者が損害を受けてしまった場合、患者は民法の規定に基づいて、不法行為責任、債務不履行責任の二つの理由で医療側に損害賠償を請求することができます。

しかし、注意しなければならないのは、これらの責任に基づく損害賠償を請求については、民法の規定で消滅時効が定められているということです。たとえば最初の不法行為責任による損害賠償では、被害者または法定代理人が損害と加害者を知ったときから3年で時効が完成すると定められています。

もちろん患者にとっては、医療過誤があったかどうかはすぐには分からないうえに、どんな損害を受けたかも簡単には分かりません。こうしたことから判例では、患者が医師の治療に不完全があったのを知ったときを起点に時効が進行するとされています。

また、患者が医療過誤によって後遺症を受けた場合、患者が損害を知ることができるのは後遺症の症状が固定してからであるため、それまでは時効はスタートしません。さらに、加害者がいったん債務を認めた場合、時効は中断され、進行しませんし、民法に定められた催告、調停などの手続きを踏むことによっても、被害者は時効消滅を防ぐことができます。

ちなみに、不法行為から20年が経つと、除斥期間という規定が成立してしまい、時効とは関係なく、不法行為による請求はできなくなってしまうので注意が必要です。ただし、途中で時効が中断していれば、時効は進行しません。

一方、診療や治療を目的とする契約に対する契約違反である債務不履行責任は、民法では、一般の消滅時効期間と同様、債務不履行行為のときから10年で時効が完成すると定められています。

このように医療従事者の責任に基づく損害賠償の請求については各種時効が定められており、時効期間が一種のグレーゾーンとなっているため、被害者は請求を無暗に先延ばしにせず、医療過誤から3年以内に請求を起こすのが万全でしょう。

書式及び参考資料

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