医療

医療過誤訴訟になったら

最高裁判所事務総局発表(民事局集計)による「医事関係民事訴訟事件統計」によれば、全国の裁判所が新たに受け付けた医療過誤訴訟は、1997年の597件から2004年には1110件まで増加。2005、2006年は1000件を下回りましたが、ここ10年で訴訟数はほぼ倍増。1日あたり平均3件強の割合で新たな医療過誤訴訟が起こっている事態となっています。

こうした医療過誤訴訟は、数ある訴訟分野の中でももっとも困難な分野の一つだと言われています。

医療過誤訴訟が困難な理由の第1は、裁判において重要な証拠となるカルテ(診療録)や看護記録などの資料のほとんどが医療機関側の手中にあり、医療機関側が自分の過失を隠すために、これらの証拠を書き換えたり、破棄してしまう恐れがあるということです。

この点、患者側はきわめて不利な立場に立たされており、証拠保全手続きなどによって医療機関側が保管している重要な証拠をいかに完全な形で入手できるかが裁判の決め手となります。

医療過誤訴訟が困難な理由の第2は、医療過誤訴訟では、カルテなどの重要証拠の分析に医学的専門知識が必要とされるということです。医療機関側の弁護士は簡単かつ無料で医療機関の専門家による助言を得られますが、患者側の弁護士は医師の協力を得られぬまま、自分で医学書などを調べて分析を行うこともしばしばです。最近では、患者側をサポートしてくれる団体の医師からの応援を得ることができるようになっているものの、協力医師に対する謝礼も馬鹿になりません。医学的専門知識という点でも、原告側は非常に不利な立場に立たされているのです。

医療過誤訴訟が困難な理由の第3は、医療訴訟には高額な費用を要するということです。特殊な分野である医療過誤訴訟は裁判が長期化することも多く、かつては平均で判決までに3年以上の長きを要していました。近年では診療経過一覧表の導入などのさまざまな改善策によって、平均2年程度に短縮されているものの、いまだに判決に至るまでには多くの日数と費用を要しています。豊富な資金を要する医療機関側に比べて、一介の個人である患者側にとって弁護士費用や裁判の諸経費の負担は肩に重くのしかかっているのです。

こうしたことから医療裁判における判決では、患者側の勝訴率は4割にもみたず、普通の民事裁判に比べて、著しく困難な訴訟分野となっています。

このように医療過誤訴訟はさまざまな面で原告側にとってきわめて困難な裁判であるため、訴訟に際しては患者側はそうした困難に対する覚悟が必要となります。

医療過誤訴訟の具体的な流れとしては、医療従事者の医療過誤によって損害を受けてしまった患者側は、まず民法の規定に定める不法行為責任、債務不履行責任のいずれかの理由に基づいて加害者である病院側に対して損害賠償を求めます。

患者側から依頼を受けた弁護士は、まず重要な証拠となるカルテや看護記録、各種検査記録などの医療機関側による書き換えや廃棄を阻止するため、それらの証拠の保全を裁判所に申し立てる手続、いわゆる証拠保全手続きを求めます。そして、証拠保全でカルテなどの証拠を保全した後は、それらを協力医に分析してもらい、医師や看護婦にどのような過失があったかを明確にした鑑定書を作成してもらいます。そして、訴状を裁判所に提出し、提訴を行います。

裁判では、裁判の争点を探す争点整理手続き、証拠調べ、医師などの第三者の専門家による鑑定などが行われ、裁判官の判断の材料とされます。そして、すべての証拠調べが終わると、弁論は集結。数ヶ月後に判決が言い渡され、判決に不満な当事者は二審への控訴を行います。さらに二審の判決にも不満のある当事者は上告の申し立てを行い、申し立てが受理された場合は最高裁での審理が行われます。こうなると訴訟は泥沼化し、大変な長期裁判になってしまいます。

書式及び参考資料

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