医療

示談か和解か判決か

きわめて特殊な分野である医療過誤訴訟は裁判が長期化することも多く、判決に至るまでに多くの時間と費用を要します。医療過誤訴訟の一審の平均審理期間は1997年の35.6か月から2004年の26.9か月へとかなり短縮されているものの、一般民事訴訟の8.4か月と比べると依然として長期を要しており、最高裁まで行くようなものになると判決の確定まで10年近くかかるものもあるほどです。こうしたことから医療過誤訴訟では、長期化や資金面での負担が当事者双方に重くのしかかってきます。

このような状況の中で、近年注目されているのがADRという交渉方法です。

ADR(Alternative Dispute Resolution、裁判外紛争解決手続)は、紛争を訴訟手続によらずに公正な第三者に関与してもらって解決を図る手続きをいいます。裁判所において行われる「調停」,行政機関、弁護士会,社団法人その他の民間団体が行う「仲裁」や「斡旋」、当事者同士による「示談」などの手続などがそれです。

こうしたADRには,第三者の専門家が実情に即した柔軟な対応で紛争の迅速な解決を図ってくれるなどの利点がありますが、これまで民間によるそれは一部を除いてかならずしも十分に機能していませんでした。このため平成19年4月施行に施工された「裁判外紛争解決手続きの利用の促進に関する法律」では,裁判外紛争解決手続のうち,民間事業者の行う和解の仲介、仲裁,斡旋業務について,その業務の適正さを確保するための一定の要件に適合していることを法務大臣が認証する制度を設けており、利用者が安心して民間事業者に仲裁を依頼できる環境が整いました。

ADRのひとつである「示談」は 民事上の紛争を裁判所の手を借りずに当事者同士が話し合って解決する方法です。当事者同士が話し合って和解に達することで、加害者と被害者が双方円満に矛を収めることができるうえ、解決までの時間がかからず、裁判費用や弁護士費用などが節約できるという利点があります。

一方、「調停」は、裁判所において患者側と加害者側が話し合いによる解決を目指す制度で、中立公正な立場の裁判所の調停委員が患者側加害者側双方の言い分を聞き、客観的に妥当と思われる解決策を提示。中立公正な解決を導いてくれます。

また、「斡旋」は調停同様、患者側と加害者側が話し合いによる解決を目指す制度ですが、裁判所以外の弁護士会などの第三者機関が中立公正な立場で患者側加害者側の間に立って話し合いを進めるという点で調停と異なり、調停が法律的技術的争点が多い事案に適しているのに対し、法律的技術的争点が少ない事案に適しています。

また、もうひとつのADRである「仲裁」には、仲裁合意と仲裁判断の二つがあり、このうち仲裁合意は、仲裁の申立てにあたって、紛争の当事者双方が紛争を裁判所以外の第三者の仲裁委員の仲裁にゆだねる合意を前もって行うものです。もし仲裁合意の後で、どちらかが裁判所に訴えた場合、一方は仲裁合意の存在を根拠に訴えの却下を求めることができます。一方、仲裁判断は、仲裁人が裁判所の判決に相当する判断を下すもので、裁判所の判決と同様の法的効力があり、上訴もできないため、当事者は不服があっても仲裁判断に従わなければならないというものです。

しかし、これらの話し合いの結果でも、双方が合意しなければ、ADRは不成立に終わり、患者側は裁判に訴えることになります。ですが、前述のように医療過誤裁判はきわめて困難な裁判であり、その平均審理期間は26.9か月と、原告側被告側双方にとって、経済的にも精神的にも多大な負担を強いるものです。また、判決での原告の勝訴率も4割と低いため、長い裁判を経て判決に至るのはわずか4割。一方、5割は判決を待たずに和解で終了しています。

裁判所が間に入って結ばれる「和解」は、民事上の紛争を裁判中に当事者同士が話し合って解決するもので、確定判決と同じような効力を持ち、結果にしたがっての強制執行も可能となります。とくに被告側が責任自体は認めていて、賠償金で折り合わないだけの場合などは、和解で解決できる可能性が高いと言えます。

こうした和解では、加害者被害者双方が円満に矛を収めることができるうえ、解決までの時間を節約できることで、精神的苦痛や裁判費用を軽減することもできます。さらに和解には、判決と違って当事者が前もって結果を知ることができるという利点もあります。

一方、判決にも、裁判所が、医療側の過失がどのようなものか、医療過誤に対する損害賠償額はどのくらいが適当かを明確に判断してくれるため、事件がうやむやにならずに済むという利点があります。医療側と和解を結ぶかどうかを考える場合は、患者側は以上のような諸点を考慮に入れたうえで、自らのケースの状況、目的、勝算、費用、時間などを総合的に考慮して和解に応ずるかを決定するべきでしょう。

書式及び参考資料

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