2014/3/20

平成26年3月20日

身体障害者手帳の不正取得は犯罪?

全ろうの作曲家が実は耳が聞こえていた

「現代のベートーベン」と呼ばれる自称全ろうの作曲家が、作曲を他人に依頼していたばかりか実は耳が聞こえていたというショッキングなニュースが世間を騒がしています。

渦中の人物は身体障害者手帳を持っており、記者会見でご本人が「最近になって症状が改善されて、診断の結果難聴とされたので障害者手帳を返還した」と発表したものの、一部では障害者手帳の不正取得だったのではないかという声も上がっています。今回のケースがどうあれ、もしも耳が聞こえるのに不正に身体障害者手帳を取得したとしたら、法律的にはどのような問題があるのでしょうか?

「身体障害者福祉法」は身体障害者の日常生活や社会生活を総合的に支援するために1949年に制定された法律です。同法に定める身体障害者とは、主に肢体不自由、視覚、聴覚、平衡機能、音声・言語機能、そしゃく機能、心臓機能、腎臓機能、呼吸器機能、腸機能、肝臓機能、免疫機能などの障害がある18歳以上で、都道府県知事から「身体障害者手帳」の交付を受けた人を指します。

障害年金の支給や交通運賃の割引も

身体障害者手帳は、身体障害者福祉法に基づいて既定の障害程度に該当すると認定された人に交付され、その程度は同法の身体障害者障害程度等級表によって1級から7級(全ろうは2級)までの区分があり、各都道府県が具体的判断のための認定基準を定めています。障害の程度が手帳の交付時に比べて変わった場合には、再認定されることもあります。

傷害者への各種福祉サービスを受けるためにはこの身体障害者手帳が必要で、申請者は指定医師が作成する診断書や意見書などを市区町村に提出。都道府県などが認定を行います。

身体障害者手帳を取得することによって受けられるサービスとしては、所得、年齢、障害程度などに応じて、障害年金の受給や医療費の助成、住民税や所得税などの減免、NHK受信料の減免、交通運賃の割引などを受けることができます。

障害年金を受け取れば詐欺罪の可能性も

それでは、もし耳が聞こえている健常者が聴覚障害と偽って不正に身体障害者手帳を取得したとしたら、法律的にはどのような問題があるのでしょうか。身体障害者福祉法には身体障害者手帳を不正に取得した場合の罰則が定められており、手帳の不正取得者は身体障害者福祉法違反の罪に問われて、6カ月以下の懲役または20万円以下の罰金が科せられることになっています。

また、年金に加入している身体障害者には障害年金が支給されますが、手帳を不正取得して障害年金をだまし取ったことになれば、さらに罪の重い刑法の「詐欺罪」にも問われて10年以下の懲役が科せられる可能性もあります。

聴覚障害は特殊な機械を使わないと正確な診断が難しいこともあって、患者の訴えがそのまま通ることも多く、身体障害者手帳の不正取得につながりやすいと言われています。

たとえば2007年に札幌市で起きた聴覚障害偽装事件では、医師によるニセ診断書を使って社会保険労務士が申請代行を行い、800人以上が聴覚障害の身体障害者手帳を取得しました。ところが、実は大半が健常者による不正取得で、不正に支給や減免された疑いのある障害年金や医療費助成金などは数億円以上に上るともいわれています。

場合によっては10年近い懲役刑も

この事件では、関与した医師と社会保険労務士が、手帳の申請に必要な診断書や意見書に虚偽の記載をし、約1億6800万円をだまし取ったとして、社会保険庁から詐欺罪で告訴されています。

札幌地裁で行われた裁判の結果、2011年9月に被告の社会保険労務士に懲役8年の実刑判決が下され、2012年6月には札幌高裁も同じ懲役8年の実刑判決を言い渡して判決が確定。また、2012年3月には札幌地裁が被告の医師に対して懲役8年の実刑判決を言い渡し、2013年2月の札幌高裁の判決も一審判決を支持。元受給者20名と仲介役2名に対しても、それぞれ有罪判決が確定しています。

一方、今回の事件では、ご本人が「障害年金はいっさい受け取っていない」と主張していることから障害年金の不正受給はなかったと思われますが、もし障害者手帳の不正取得にくわえて障害年金まで不正受給していたとしたら、身体障害者福祉法違反の罪に問われるばかりでなく、より罪の重い詐欺罪にも問われて、場合によっては10年近い懲役が科せられた可能性もあったわけです。

書式及び参考資料

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