隣人との騒音トラブルをどうする? 2013/07/16

平成25年7月16日

隣人との騒音トラブルをどうする?

急増する隣人との騒音トラブル

「最近マンションの隣の部屋に引っ越して来た学生が毎夜遅くまでステレオをかけ、大声で騒ぐので夜も眠ることができない。いくどか静かにしてくれるように頼んでみたが、『分かりました』と言うだけでさっぱり改善されず困っている」などという苦情を最近よく耳にします。都会ではいまや珍しくない騒音をめぐるトラブルですが、近隣住民が引き起こす騒音は法的にはいったいどうなっているのでしょうか?今回はさまざま騒音トラブルの中でも、とくに隣人との騒音トラブルをめぐる法律について考えてみましょう。

「都心回帰」のブームに乗って、これまでの郊外の一戸建てから都心のマンションに移り住む人たちが増え、いまや日本の10世帯に1世帯がマンション住まいとも言われています。しかし、庭のある一戸建てとは違い、鉄筋コンクリート建てとはいっても隣人との間は壁一枚。あたり構わぬ深夜の騒音を防ぎきれるはずもなく、騒音トラブルの頻発が問題となっているのが現状です。

こうした隣人との騒音トラブルの代表的な事件としては、マンションではありませんが、近所の主婦とのいさかいが昂じて数年間にわたって連日連夜ラジカセで大音量の音楽を流し続けた通称「騒音おばさん」の事件があります。

また、連日の騒音トラブルにいらいらをつのらせた住民が暴力に及ぶケースも目立ち、2007年12月には愛知県のマンションで、階上の家族の立てる物音がうるさいとして、真下の部屋に住む男性が女性の腹などを刺す事件が発生しました。被害者宅は3人の子供のいる5人家族で、事件前にも男性と騒音をめぐって言い争いがあったといいます。

生活騒音を規制する強力な法律はなし

騒音を規制する法律については、工場や建築、交通などが発生する騒音に関しては「騒音規制法」による法的規制があります。一方、ステレオや話し声、ペットの鳴き声、ピアノ、クーラーの室外機などの隣人が発生するいわゆる生活騒音を規制する法律はとくにありません。その理由としては、わが国のような住宅が密集する狭い国土では、多少の生活騒音は我慢するべきで、そんなことに国がかかわる必要もなく、当事者間で解決すべきだというお役人側の事情もあるようです。

また、都道府県などの自治体では、生活騒音に関して独自の条例を制定しているものの、厳しい規制を科しているところはほとんどなく、事実上野放し状態になっているのが現状です。こうした背景から、近年の都市部のマンション急増による騒音トラブルが頻発しているのです。

それでは、隣人が発生する生活騒音にはしぶしぶ泣き寝入りするほかはないのでしょうか?

いいえ、そうではありません。たしかに生活騒音を強力に規制する法律や条例はないものの、既存の法律や条例を使って迷惑な生活騒音を防止する手立てはいくらでもあるからです。以下にそれらの方法を順を追って検討してみることにしましょう。

大家さんや管理会社に注意してもらう

隣人の発生する生活騒音に対処するには、賃貸しマンションの場合はまず大家さんや管理会社に頼んで騒音を出す隣人に注意をしてもらいましょう。マンションなどの賃貸借契約は大家さんや管理会社に対して、借主に良好な住まいを提供する義務を課しています。したがって、大家さんや管理会社は隣人の発生する騒音が良好な住環境を妨げている場合は騒音を止めさせる義務があるのです。

一方、大家さんや管理会社がいくら注意しても隣人が無視するような場合は、隣人の常軌を逸した騒音を発生する行為は、マンションの賃貸借契約上の違反行為となります。大家さんや管理会社はそれを盾に隣人との賃貸借契約を破棄することも可能となるので、隣人との賃貸借契約を破棄して部屋から出て行ってもらうようにしてもらうこともできるでしょう。

また、大家さんや管理会社に頼んでも、やる気がなかったり弱腰だったりして、いっこうに改善も契約破棄もなされない場合は、都道府県や市町村などの自治体に相談してみる手もあります。もよりの自治体に生活騒音への規制を定めた条例があれば、公害課や市民相談などの窓口が相談に乗ってくれ、条例に基づいて指導してくれる可能性もあります。

ただし、お役所側としては騒音のような民間トラブルに巻き込まれたくないという思惑もあり、強気の対応に出ることはほとんどないのが現状です。結局軽い注意でお茶を濁して、後は個人の話し合いに任せるといった対応が大半なので、無駄足に終わるケースも多いようです。

迷惑防止条例違反による警察の逮捕も

大家さんや自治体からの注意にもかかわらず、一向に騒音が収まらない場合は、思い切って警察に通報する手もあります。

軽犯罪法では、「公務員の制止をきかずに、人声、楽器、ラジオなどの音を異常に大きく出して静穏を害し近隣に迷惑をかけた者」は「これを拘留又は科料に処する」と定められています。このため、もよりの警察署に連絡すると、警察官がやってきて注意してくれるので、相手によってはけっこう効果がありますし、警察官の注意を聞かずに隣人がその場で騒音を出し続けた場合は、軽犯罪で逮捕される可能性もあります。

警察官の注意でいったんはおさまったものの、その後も隣人が騒音を出し続ける場合は、その行為が自治体などの条例に違反していれば、警察に告発することもできます。「告発」は犯人または告訴権者以外の第三者が検察または警察に対して、犯罪事実を申告して訴追を求める法的手続きです。被害届だけでは警察は積極的に動きませんが、告発となると警察は動かざるをえない立場にあるのです。

2012月11月には、隣人トラブルで騒音を出し続けたとして、警視庁生活安全総務課が新宿区の自称アルバイトの男性を逮捕しています。逮捕容疑は東京都迷惑防止条例違反で、男性は10年ほど前から隣人宅のシャッター音がうるさいとして、ビデオカメラで隣人の出入りを監視。男性や家族が外出するたびに、プラスチックの板をほうきでたたいて嫌がらせを続け、音量は電車のガード下と同程度の97デシベルに達していたそうです。

「騒音おばさん」事件は最高裁にもつれ込み

隣人との騒音トラブルが警察沙汰になった代表例としては、前述した「騒音おばさん」の事件があります。

この事件は2002年11月から05年4月の間、CDラジカセで大音量の音楽を流し続けて近所の女性に睡眠障害などを負わせたとして、奈良県の通称「騒音おばさん」が2005年4月に傷害罪の容疑で奈良県警に逮捕された事件です。住宅街の隣人の騒音が刑法の傷害罪にあたるかどうかが争点となった裁判は最高裁までもつれ込み、日本中の注目を集めました。

2004年4月の奈良地裁の一審判決では、「音楽を大音量で鳴らし続ける行為は、被害者に精神的ストレスを与え、身体の生理的機能を害するもので傷害罪にあたる」と認定し、「被害者に困惑を与えることに徹した執拗、陰湿な犯行で、反省の態度が感じられず、再犯の可能性も高い」として、被告に懲役1年の実刑判決が下されましたが、弁護側、検察側双方が控訴しました。

2006年12月の大阪高裁の二審判決では、近所の主婦にストレスを与え続けて体調不良に陥らせるため、被告が自宅から隣家の被害者に向けて連日連夜にわたって音楽を大音量で流し続け、被害者に頭痛や睡眠障害、高血圧症の悪化などを負わせた行為は傷害罪に当たると指摘、「傷害の確定的な故意があり犯行は陰湿。一審判決の量刑は軽い」として一審判決を破棄し、懲役1年8月の実刑判決が下されました。

そして、弁護側の控訴を受けた2007年4月の最高裁判決でも、被告側の上告を棄却する決定が下され、2審判決が確定したのです。

民法の不法行為による損害賠償請求も

この「騒音おばさん」事件は傷害罪に値するほどの悪質な例であり、実際の騒音トラブルのすべてには適用できません。通常の隣人騒音はこうした犯罪行為にはあたらないケースが多いため、最終的解決には裁判所に民事上の調停や訴訟を申し立てることが必要となります。もしこころあたりの弁護士がいない場合は、自治体や法テラスなどの無料法律相談で適当な人を紹介してくれるでしょう。

民法第709条は「故意または過失により他人の権利を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と規定しており、隣人の立てる騒音が被害者の権利を侵害していれば、民法による行為の差し止めや損害賠償を請求することができます。

ただ裁判で騒音に対する差し止めや損害賠償を請求するには、相手の行為が民法の「不法行為」(民法709条)の規定に該当しなければなりません。過去の判例では、騒音による不法行為の基準として「受忍限度」という考え方が用いられており、「社会共同生活を営む上で一般通常人ならば当然受忍すべき限度を超えた侵害を被ったときに侵害行為は違法性を帯び不法行為責任を負う」とされています。いわば我慢の限界というわけで、騒音が被害者の我慢の限界を超えていれば不法行為とされるのです。

そして、裁判で隣人騒音が受忍限度を超えていると認定されれば、隣人の不法行為による権利の侵害が認められ、騒音によって受けた精神的苦痛や健康被害に対する損害賠償の請求にくわえ、騒音を出すことを禁ずる差止請求を行うことができます。

騒音被害立証には具体的証拠を

では、具体的にはどの程度の騒音が受忍限度を超えていると言えるのでしょうか。これまでの裁判における「受忍限度」の判断基準としては、騒音発生行為の性質と内容、態様と程度、騒音発生の開始とその後の継続状況やその間に採られた被害防止に関する措置の有無、その内容や効果などがあり、それらを総合的に考慮して判断されます。

ちなみに裁判においては、騒音による被害を立証するためにはただ「うるさかった」と証言するだけでは駄目で、具体的な証拠が求められます。そのため、証拠の収集が必要となり、裁判に訴える前にあらかじめ隣人がどんなにうるさいかの証拠を集めておかなければなりません。たとえば隣人の立てる騒音をレコーダーで録音して、その日時や状況を記録したり、大家さんや知人などに証人になってもらうために部屋で騒音を聞いてもらうのもよいでしょう。さらに、業者などに頼んで騒音計で騒音の音量を測定してもらうのも有効です。騒音によって体調を崩したり、精神的症状が出ているような場合は、医者に頼んで診断書を書いてもらいましょう。

騒音計で騒音を記録して裁判に勝利

騒音をめぐる証拠集めに関しては、最近の騒音をめぐる裁判がよい参考になります。

2012年3月、東京のマンションの1階に入居する夫婦が、2階に引っ越してきた幼い男児とその家族に対して、騒音の差し止めと損害賠償を求めた訴訟の判決が東京地裁でありました。

この事件では、裁判を起こす前に原告が男児が部屋で飛び跳ねる音がうるさいなどとして、男児の父親に抗議をしています。しかし、父親は「これ以上静かにすることはできない、文句があるなら建物に言ってくれ」などと言って取り合わず、思いつめた男性は業者に依頼して騒音計などで騒音を測定。騒音による精神的苦痛を受けたとして慰謝料にくわえて、妻が頭痛で通院した治療費や騒音測定費用などに対する240万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしました。

判決では「男児が飛び跳ねたり走り回ったりする音は生活実感としてかなり大きく聞こえ相当の頻度であった」「騒音の程度は50〜60デシベルとかなり大きく、深夜に及ぶこともあった。被告は子どもをしつけるなど住み方を工夫し、誠意ある対応をするべきだった」と指摘。騒音は「我慢できる限度を超えていた」として、男児の父親に対して36万円の損害賠償の支払いとともに、今後一定以上の騒音を出さないように命じる判決を言い渡しました。

この判例は、騒音計などで騒音を記録してうるささを具体的に証明することで、マンションなどの騒音トラブルについても、裁判によって解決できる可能性があることを示した好例と言えるでしょう。

書式及び参考資料

注意事項

利用者の皆様に提供する回答は、弁護士の法的助言にかえることはできません。あくまで、ご自身の判断の一助にしてください。