犯罪予告などでよく聞く「威力業務妨害」ってどんな法律? 2013/12/18

平成25年12月18日

犯罪予告などでよく聞く「威力業務妨害」ってどんな法律?

販売中止を求める脅迫文で逮捕

某人気漫画やその関連商品を扱うコンビニや、関連するイベント会場などに次々と脅迫文が届き、商品が撤去されたり、イベントが中止に追い込まれた事件で、最近大阪市の男性が警視庁に逮捕されました。

容疑は「威力業務妨害」。犯罪予告などの事件でよく耳にする罪名ですが、「どんな法律?」と聞かれるとほとんどの人が首を傾げてしまいます・・・いったい威力業務妨害罪とはどのような法律なのでしょうか?

「威力業務妨害」は「業務妨害」(営業妨害)の一種で、一般的には商売に対する妨害といったイメージがありますが、ここで言う「業務」の意味するところはもう少し広く、人がその社会生活上の地位にもとづいて継続して行う行為のことをさします。企業や商店などの経済活動のみばかりか、日常的に繰り返される社会活動一般までを含んでいるのです。

また、業務が実質的に妨害されなくても、爆破予告のように業務の執行や運営を妨げるおそれがある状態を生じさせるだけでも業務妨害は成立します。

遊び目的の運転は業務とは言えない

経済活動から日常的な社会活動まで、幅広い活動を含む業務妨害ですが、さすがになんでもかんでも業務妨害が成立するというわけではありません。

たとえば運転手が配達のためにトラックを運転していて、通りかかった酔っ払いにからまれて前に進めなくなってしまったようなケースでは、酔っ払いに配達という業務を故意に妨害されたことになりますから、業務妨害罪成立の可能性があります。

一方、トラックの前で子供の自転車がすべって転んで、トラックが前に進めなくなってしまったようなケースでは、故意ではなく誤ってトラックを妨害したことになりますから業務妨害罪は成立しません。

また、運転手が配達のためでなくパチンコに行こうとしてトラックを運転していた時に、酔っ払いにからまれて前に進めなくなってしまったようなケースも、遊びで出かけるのは業務とは言えないため業務妨害罪は成立しません。

ライバル社製品の欠陥を広める虚偽の文書など

法律上の業務妨害には、「虚偽風説流布業務妨害」(刑法233条)、「偽計業務妨害」(刑法233条)、「威力業務妨害」(刑法234条)の3種類があり、さらに近年にはIT産業の急速な発達によるコンピュータがらみの業務妨害である「電子計算機損壊等業務妨害」(刑法234条)が追加されています。

この4つの業務妨害のうち刑法233条(信用毀損及び業務妨害)に定める「虚偽風説流布業務妨害」と「偽計業務妨害」は、「虚偽の風説を流布し、または偽計を用いて人の業務を妨害」する行為です。

このうち「虚偽風説流布業務妨害」は、不特定多数の人が知るように虚偽の風説(うわさ)を流布(流す)して、他人の業務を妨害したり、他人の業務の信用を損なう行為で、例としては、ライバル社の製品に欠陥があるなどといった虚偽の文書を取引先に送ったり、ライバルの飲食店が食中毒で営業停止になったなどといった嘘の噂を流すなどの行為が虚偽風説流布業務妨害にあたります。

数百回にも及ぶ無言電話なども

一方、「偽計業務妨害罪」は偽計(ニセの謀り事)を用いて人の業務を妨害する行為です。ここで言う「偽計」は他人を騙したり(偽計錯誤)、誘惑したり、他人の勘違いや不注意、知識不足などに乗じる(策略)などの行為を意味し、それらの手口によって他人の業務を妨害したり、失敗させたりする行為です。

たとえば他人を装ってその人の事務所に出前を届けさせたようなケースは「偽計業務妨害」となります。過去の判例を見ると、恨みを持つ飲食店を営業妨害するために数百回にも及ぶ無言電話をかけたケースや、入り口に偽の「休業中」の札を張り出した、売り場の布団に数百もの針を混入した、ライバル新聞社の購読者を横取りしようと紛らわしい紙名や体裁で新聞を発行した、有線放送の電線を切断した、漁場に障害物を沈めて魚網が破れるようにした、駅弁が不潔だという虚偽のハガキを鉄道局に送ったなどのケースが偽計業務妨害と判断されています。

偽計業務妨害に対しては、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。

コンピュータにかかわる業務妨害は?

近年のIT産業の急速な発達にからんで、コンピュータにかかわる業務妨害行為が社会的にも見逃せない問題となってきました。とくに鉄道などの公共交通機関、電力ガス水道などの重要社会インフラ、病院などの医療機関などの業務を司るコンピュータやデータへの妨害が行われた場合は、きわめて深刻な事態を招きかねません。

しかし、これまでの偽計業務妨害罪や威力業務妨害罪では,コンピュータを不正に操作して他人のコンピュータ業務を妨害するといったケースに対して適用することは困難でした。

そんな中、1987年に成立した刑法234条の「電子計算機損壊等業務妨害罪」は、直接コンピュータを壊したり、電源を切断したり、データを消去するなどの物理的破壊にくわえて、ウイルスなどの不正なプログラムなどによってコンピュータの作動に悪影響を及ぼして業務を妨害するなどのケースも取り締りの対象としています。

電子計算機損壊等業務妨害罪では、コンピュータなどを使って、他人が業務に使用するコンピュータやその電磁的記録(データ)を壊したり、虚偽の情報(データ)や不正な指令(プログラム)を入力するなどの方法によって,他人のコンピュータを停止させたり、使用目的に反する有害な動作をさせるなどして、他人の業務の遂行を妨げる行為を罰則の対象としています。

しかし、同じコンピュータ関連でも、いたずら目的でインターネットの掲示板に「受験会場に爆弾を仕掛けた」などといった書き込みを行う犯罪予告は、コンピュータやデータなどへの妨害行為ではないので、電子計算機損壊等業務妨害ではなく威力業務妨害にあたると考えられます。

電子計算機損壊等業務妨害罪には5年以下の懲役、または100万円以下の罰金が科せられます。

暴力・脅迫・威迫などで他人の自由意思を制圧

一方、今回のテーマである「威力業務妨害」は刑法234条に定める「威力を用いて人の業務を妨害する行為」です。ここで言う「威力を用いる」とは、「他人の自由な意思決定を制圧するような威勢を示すこと」あるいは「不法に有形力を行使すること」で、業務を遂行しようとする他人を押さえつけて、業務を妨害するのが威力業務妨害です。

「他人の自由意思を制圧するに足りる勢力」や「有形力」がどのようなものをさすのかということについては、実際に物理的被害を与える暴力や破壊、社会的な信用失墜や不利益、金銭やビジネスなどの経済的損失などといったさまざまな手段が考えられ、それらを使うと誇示したり、実際に使ったりすることがあたります。

威力業務妨害罪では、実際に他人が自由意思を制圧されて業務の遂行を妨げられなくても、業務の遂行を妨げるおそれがある状態を生じさせるだけでも罪が成立します。

爆破などの犯罪予告は威力業務妨害

威力業務妨害の例として代表的なのが警察、消防、施設、企業、学校などへのいたずら電話です。「羽田空港に爆弾を仕掛けた」などの電話をかけて、飛行機の発着を中止させるなどの犯罪予告行為は、威力を用いて人の業務を妨害すると脅したことで威力業務妨害にあたり、近年増加中のインターネットを利用した犯罪予告もこれに含まれます。

さらに、店や事務所の営業中に糞尿をまきちらして営業できなくしたり、制作中の書類を奪って隠す、店で大声で怒鳴り出して暴れたりする、入り口に猫の死骸をぶら下げる、店のショーウィンドウを壊す、店に入ろうとする客を力ずくで入れないようにする、レース場に釘をまき散らすなどのケースも、威力を用いて人の業務を妨害したことになり、威力業務妨害が成立します。

また、上記のようなことをするぞと脅しただけで、実際に他人が業務の遂行を妨げられなくても、業務の遂行を妨げるおそれがある状態を生じさせたことで威力業務妨害が成立します。

威力業務妨害罪の罰則は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。

「威力業務妨害」と「偽計業務妨害」の違い

ちなみに、威力業務妨害は偽計業務妨害とよく似ていて、両者の線引きが難しいケースも少なくありません。

「威力業務妨害」と「偽計業務妨害」の相違点は妨害の手段が異なることで、威力業務妨害の妨害手段は「他人の自由な意思決定を制圧するような威勢を示すこと」あるいは「不法に有形力を行使すること」。一方、偽計業務妨害の妨害手段は「偽計」で、他人を騙したり、誘惑したり、他人の勘違いや不注意、知識不足などに乗じる行為です。

したがって、両者の違いは人の業務を妨害するのに「威力」を用いたのか、「偽計」を用いたのかの違いで、起訴にあたっては検察は被告の行為がどちらにあたるかを判断しなければなりません。

ちなみに、威力業務妨害罪も偽計業務妨害罪も前述した通り刑は同じ3年以下の懲役または50万円以下の罰金になります。

公務執行妨害罪と業務妨害罪の法的線引

これまで述べた「業務妨害」は民間の業務を妨害した場合に適用されますが、公の業務を妨害した場合は「公務執行妨害」が適用されます。しかし、実は業務妨害罪と公務執行妨害罪との法的線引きは意外に微妙になっています。

公務執行妨害罪の適用にあたっては、刑法95条で定められた「公務」がなにを意味するかがポイントとなります。もちろん警察や国税、税関などの職員の業務(権力的公務:国民に対して強制的に行う業務)なら分かりやすいのですが、公務員の範囲は市バスの運転手から清掃局の職員まで幅広く、公務の明確な範囲を定義するのは至難の業です。

これまでの判例では、公務は権力的公務に限定されないという判断が出ていますが、 どこまでを公務としてよいかの具体的線引きはいまだに曖昧なままなのです。

また、公務執行妨害罪は公務執行妨害の手段を「暴行または脅迫」に限定しているため、暴行や脅迫にあたらない手段を使った公務への妨害に対しては公務執行妨害が成立しません。したがって、そうしたケースでは公務執行妨害に代わって偽計業務妨害罪や威力業務妨害罪などの業務妨害罪の適用を考えることになります。

なにかにつけ警察が逮捕名目に使うのでご注意

威力を用いて他人の業務を妨害する行為としてはあらゆるケースが考えられるため、威力業務妨害罪の「業務」を適用できる範囲は非常に広くなっています。しかも、実際の行為がなくても適用可能ということで、ささいな行為も同罪の対象になる可能性があり、実際これまでの判例でも威力業務妨害罪の範囲が非常に幅広くとらえられてきたという経緯があります。

このため、警察がこの罪を意図的に捜査名目に使うケースも目立ちます。たとえば、ある学校の卒業式で、君が代斉唱に反対して入場前にビラなどを配った元教員が、卒業式の開始を5分遅らせたとして、警察に「威力業務妨害」を名目に家宅捜査されたケースなどがそれで、君が代斉唱への反対を封じ込めるために警察が「威力業務妨害」を捜査名目に使ったと非難されています。

このように威力業務妨害という罪は、なにかにつけ警察が逮捕名目に使いかねないため、一般国民としても不当逮捕の犠牲にならないように注意が必要なのです。

書式及び参考資料

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