「迷惑行為防止条例」ってどんな法律? 2014/03/20

平成26年3月20日

「迷惑行為防止条例」ってどんな法律?

「迷惑行為防止条例」で盗撮犯を逮捕

「盗撮」による被害が拡大しています。

インターネットやビデオなどで盗撮画像を公開する機会が広まったことや、スマートフォンの撮影時のシャッター音を消すことのできるアプリや超小型カメラなどの登場によって盗撮の手口が巧妙化していることも、一向に被害が減らない原因となっています。

そんな盗撮にかかわるニュースでよく耳にするのが「迷惑行為防止条例」という法律です。

盗撮事件を伝えるニュースでアナウンサーが「盗撮犯が迷惑行為防止条例違反で逮捕された」と報じているのを、どなたもお聞きになったことがあるでしょう。

でも、そうは言っても、「迷惑行為防止条例という言葉は聞いたことがあるけど、それがどんな法律かはよくわからない」という方が大半のようです。いったい迷惑行為防止条例とはいったどのような法律なのでしょうか?

盗撮・痴漢から押し売り、ビラ配りまで

迷惑行為防止条例は、特定または不特定多数の人に著しく迷惑をかける行為を防止することで、住民生活の平穏を保持することを目的とした条例の総称です。全都道府県や一部市町村で定められていますが、正式名称や内容は自治体によって異なり、複数の条例を定めている自治体もあります。

たとえば青森、福島、埼玉、神奈川、新潟、京都、山口、香川、徳島などでは「京都府迷惑行為防止条例」のように自治体の名前の後に迷惑行為防止条例を付けたものを正式名称にしています。一方、東京都の迷惑行為防止条例の正式名称は「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」で、多くの県はこの名前ないしはよく似た名前を正式名称として使っています。

条例の規制対象となる行為も自治体によって異なっており、盗撮や痴漢をはじめ、のぞき、つきまとい、ダフ屋、ビラ配布、押売、暴力、客引きなどさまざまです。また、条例違反に対する罰則も自治体ごとに異なります。

ダフヤやショバヤ、景品買や押売を禁止

東京都の迷惑行為防止条例(公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例)は都民に身近な迷惑行為を防止し、都民生活の平穏を保持することを目的に制定されました。主な内容としては、乗車券等の不当な売買行為(ダフヤ)、座席等の不当な供与行為(ショバヤ)、景品買行為、つきまとい行為等、押売行為、不当な客引行為、ピンクビラ等配布行為等、粗暴行為などに対する禁止があります。

このうち粗暴行為では、痴漢や盗撮などの卑わいな言動、うろついたり、たむろしていいがかりをつけるなどの不安を覚えさせる言動、祭りなどで混乱を引き起こしたりする言動、そして落書きなどが規制の対象になります。

警視庁統計による平成24年度の盗撮による東京都迷惑行為防止条例違反は前年度比大幅増の484件に及び、公共の場所や乗物における盗撮にくわえて、公衆便所、公衆浴場、公衆の更衣室などにおける盗撮の禁止が最近追加されています。

また押売行為では、これまでの押売に加えて、相手に不安を覚えさせるような言動、断られても速やかにその場から立ち去らない行為、相手方の判断に重要な影響を及ぼす事実について著しく誤解させるような表示や言動など、悪質な訪問買取の禁止も追加されました。

さらに不当な客引行為では、これまでの客待ちに加えて、性風俗嬢やアダルトビデオ女優などのスカウト目的で公共の場で相手を待つ行為の禁止も追加されています。

一方、神奈川県の迷惑行為防止条例の正式名称は「神奈川県迷惑行為防止条例」。禁止行為としては、粗暴行為、卑わい行為、金品の不当な要求行為、押売行為等、乗車券等の不当な売買行為、座席等の不当な供与行為、景品買行為等、不当な客引行為等、迷惑ビラ等を配る行為等、つきまとい等、深夜における不安を覚えさせる行為などにくわえて、海山の観光地を抱える同県らしく、水浴場等における危険行為等、登山等における危険行為等なども禁止されています。

「ぼったくり条例」とはどう違うの?

ちなみに多数の盛り場を抱える東京都では、性風俗店や飲み屋のぼったくりなどの不当行為を防ぐため、「性風俗営業等に係る不当な勧誘、料金の取立て等及び性関連禁止営業への場所の提供の規制に関する条例」(いわゆる「ぼったくり防止条例」)が迷惑行為防止条例とは別に定められています。

同条例は平成12年に全国で初めて制定され、東京都公安委員会が指定する新宿、上野、池袋、渋谷の4繁華街で適用されます。地域内の風俗店や酒場などが対象で、法外で暴力的な料金の取り立てを禁じるとともに、料金や違約金などの内容を店内にはっきりと表示することを命じています。

そして、違反店には、行為者にくわえて店を経営する法人または人への罰金刑が科されることになっています。

さらに、平成24年には指導義務の範囲が拡大され、性風俗営業等を営む者は、スカウト行為を委託された者が指定区域内においてスカウト目的で相手方を待つ行為をしないように指導しなければならないことになりました。

また、大阪でも同様な「大阪府酒類提供等営業に係る不当な勧誘及び料金の不当な取立ての防止に関する条例」が定められており、北海道や宮城、福岡などの盛り場を抱える自治体における制定も進んでいます。

条例の違反者には懲役や罰金が

迷惑行為防止条例は刑法などと同じ立派な法律であり、違反者は厳しい罰則で罰せられます。

たとえば東京都の迷惑行為防止条例では、痴漢は6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金。悪質な常習性が認められるときは1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられます。

一方、痴漢行為が非常に悪質な場合は、刑法の「強制わいせつ罪」が適用される可能性もあります。罰則は強制わいせつ罪が6カ月以上10年以下の懲役で、迷惑行為防止条例違反に比べて格段に罪が重くなりますが、いったいどのような行為に強制わいせつ罪が適用されるのでしょうか。

刑法176条の強制わいせつ罪の条文では“十三歳以上の男女に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の男女に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。“と書かれており、被害者は暴行や脅迫によって反抗できない状態にされたうえでわいせつ行為をされる状況となります。

一方、東京都の迷惑行為防止条例第五条の条文を見てみると、“何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であって、次に掲げるものをしてはならない。一 公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること。”と書かれており、被害者は羞恥や不安を感じるものの、反抗できない状態には至っていません。したがって、この辺りの違いが迷惑行為か強制わいせつかの違いになっているようです。

ちなみに実際の適用においては、服の上から体を触った場合は迷惑行為防止条例違反、下着の中に手を入れたりすると強制わいせつ罪というのが判断基準といわれています。

他人の敷地内での盗撮は軽犯罪法違反に

東京都の迷惑行為防止条例では、盗撮行為の禁止に違反して公共の場所や公共の乗り物などで盗撮やのぞきを行った場合、通常は1年以下の懲役または100万円以下の罰金。一方、常習の場合は2年以下の懲役または100万円以下の罰金と、痴漢より重い罰則が科せられます。

しかし、迷惑行為防止条例は公衆に著しく迷惑をかける行為を処罰の対象としているため、路上や駅構内などの公共の場所や乗物、不特定多数の人が利用する公衆便所、公衆浴場、公衆の更衣室などの通常人が衣服をつけないでいる場所などにおける盗撮を禁止しているだけです。このため、他人の住居の敷地内に入って風呂場やトイレなどをのぞいたり、盗撮したりする行為は含まれていません。

では、他人の住居の敷地内に入って風呂場やトイレなどをのぞいたり、盗撮したりする行為に対して法律はどのように対処しているのでしょうか?

他人の住居の敷地内に入っての盗撮やのぞきは「軽犯罪法」違反になります。軽犯罪法は刑法にはあたらないような軽い犯罪行為を取り締まるために定められた法律で、軽犯罪法1条23号には、他人の住居の敷地内に入っての盗撮やのぞきについては「正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣室、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者」は拘留または科料に処すると規定されています。

東京都の迷惑行為防止条例が「通常人が衣服をつけないでいる場所」を公衆便所、公衆浴場、公衆の更衣室などの不特定多数の人が利用できる場所に限定しているのに対し、軽犯罪法では場所を限定していないので、個人宅での盗撮やのぞきに対しても適用することができるのです。

ちなみに、のぞきや盗撮目的で他人の所有する敷地内に侵入すれば、刑法の住居侵入罪も適用されますので、こちらの罪はさらに重く、懲役3年以下又は10万円以下の罰金が科せられます。

迷惑防止条例強化の動きが加速

最近の盗撮行為の巧妙化にともない、都道府県による迷惑行為防止条例強化の動きが目立っています。

盗撮事件では、被害者が知らぬまま写されてしまった盗撮画像がいったんネット上にアップされてしまうと、コピー画像がたちまち拡散。ネット上から画像を完全に削除するのはほぼ不可能となって、被害者は深い傷を負ってしまいます。中には盗撮をビジネスにしている悪辣な者もいて、被害者の数は増える一方です。

しかし、これまでの迷惑行為防止条例では、盗撮禁止の場所が公共の場または公共の乗り物に限られていたため、公園などの公衆便所、商業施設や学校、職場などのトイレや更衣室といった不特定多数の人が利用する場での盗撮は、軽犯罪法でしか取り締れませんでした。しかし、軽犯罪法の盗撮に対する罰則は拘留または科料で、拘留は30日未満の身体拘束、科料は1万円未満の金銭的罰則と軽く、再犯が後を絶ちませんでした。

このため、各都道府県が迷惑行為防止条例による取り締まり強化をはかっているのです。

東京都の迷惑行為防止条例では、前にも述べたように平成24年にこれまでの公共の場所や乗物での盗撮の禁止にくわえて、公衆便所、公衆浴場、公衆の更衣室などにおける盗撮の禁止が追加されました。

カメラを向ける行為自体を禁止

神奈川県でも、平成19年4月に条例を改正。公共の場所や乗物における「卑わいな言動」を、痴漢行為、のぞき見行為、盗撮行為、その他卑わいな行為の4項目に分けて、罰則を強化。違反者には1年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科せられます。

また「透視行為の禁止」として、正当な理由なく、透視機能付きカメラを使用して、公共の場所や乗物にいる人の下着や身体を見る行為、映像を記録する行為を禁止。また、「盗撮行為の禁止」として、正当な理由なく、浴場など衣服を着けないでいるような場所(自宅も可)における、遠隔操作による隠し撮り、望遠レンズ付きカメラによる隠し撮りなど、写真機等を使用して他人の裸の映像などを記録する行為を禁止しました。

さらに、京都府でもこの3月「京都府迷惑行為防止条例」の改正案を可決。路上や駅などの「公共の場所」や電車やバスなどの「公共の乗物」にくわえて、これまで対象外だった学校の教室、職場、病院、学習塾などでの盗撮を新たに規制対象に加えました。

押されてスカートの下に携帯が行っただけで

一方、こうした取り締まりの強化に対して「冤罪の恐れがある」という懸念の声も上がっています。

たとえば岩手県も県迷惑好行為防止条例の改正に乗り出しています。

現在の条例では、盗撮犯を逮捕するには盗撮した画像の確認をしなければならないため、犯人が盗撮画像を消去してしまったり、スカートの下にカメラを忍び込ませただけで撮影未遂の段階だったりしたケースなどでは取り締ることができませんでした。

このため、改正案では、「カメラ等を着衣で覆われた下着等に向けて差し出す行為」自体を禁止。罰則もこれまでの30万円以下の罰金から6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に強化するといい、県議会での審議が注目されています。

しかし、盗撮画像がなくてもカメラを向けただけで盗撮行為をしたとなると、適用対象になる行為の範囲が格段に広くなって、冤罪が起きやすくなるのではないかという懸念の声も上がっています。

これまで盗撮行為を立証する証拠は盗撮画像がメインであり、誰が見ても盗撮の事実を証明できる客観性の高い証拠でした。しかし、もしカメラを下着に向けて差し出す行為だけでも犯罪だとなると、主観性の高い被害者の供述だけで物的証拠なしに盗撮を立証できることになって、冤罪の危険が高まることになります。

たとえば満員電車でカメラ付き携帯電話を手に持っていて、混雑に押されて前にいる女性のミニスカートの下に手が行ってしまったとします。そこで、もし女性が「盗撮された!」と思って叫び声を上げたとしたら、どうなってしまうのでしょうか?場合によっては、盗撮の現行犯で逮捕され、女性の証言だけで盗撮犯にされてしまい、懲役刑を科せられて人生まで狂わされてしまう可能性さえあるのです。

一部の不届き者のために条例が過度に強化された結果、善良な市民までが犯人扱いされる時代が到来してしまったのでしょうか?

書式及び参考資料

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