弱い立場の下請け業者を守る最後の砦「下請法」とは?  2014/09/26

平成26年9月26日

弱い立場の下請け業者を守る最後の砦「下請法」とは? 

消費税増税分の上乗せを拒まれる中小企業が

4月の消費税3%アップに際して、中小・零細企業が大手取引先に増税分の価格転嫁を拒まれるケースが報告されています。

国内外を巻き込んだ激しい価格競争の中、大手企業にとっても消費税増税分をそのまま価格に上乗せすることは死活問題です。そのため、さまざまな理由をつけて中小・零細企業が増税分を価格に上乗せするのを拒んでいるのです。

一方、大手企業から仕事をもらう弱い立場の中小・零細企業にとっては、大切なお客様である大手企業の要求は絶対です。大手企業の発注係の中には、露骨に口には出さずに遠回しな表現で増税分の価格転嫁を拒むしたたか者もいるようです。また、中小・零細企業側も、取引先に言われる前に相手の気持ちを察して、自腹で納入価格を据え置く企業も多いといいます。

このように強い立場の大手企業が弱い立場の中小・零細企業が取引先にさまざまな理由をつけて増税分の価格転嫁を拒む行為は、法的に問題ないのでしょうか?

発注側大手企業が理不尽な取引を無理強い

発注側として強い立場にいる大手企業が発注先の中小・零細企業、いわゆる「下請け」に対して、その優位な立場を利用して発注を突然取り消したり、発注の内容を途中で変更したり、仕事をやり直させたり、代金を減額したり、支払いを遅らせるなどの理不尽な取引を無理強いする行為は昔から行われてきました。

しかし、仕事をいただく弱い立場にいる下請け業者側は、大手にどんなに理不尽な取引を強いられても、仕事欲しさに逆らうこともできず、泣く泣く甘んじるほかはありませんでした。

そんな不公正な取引を、大手企業が下請け業者に対して強要することを防ぐための法律が「下請法」(下請代金支払遅延等防止法)です。

下請法は独占禁止法の特別法で、朝鮮戦争後の1956年、当時下請業者に対する代金の支払い遅延が多発していたことから、下請取引の公正化や下請業者の保護を目的に制定されました。

アプリなどの「情報成果物」作成委託も

では、下請け業者を守ってくれるという下請法とは、いったいどのような法律なのでしょうか?

下請法の元となる独占禁止法の立法主旨では、「不公正な取引方法」が禁止されており、そうした趣旨の下、不公正な取引方法から中小企業を保護するために制定されたのが下請法です。

下請法では「下請代金の支払遅延等を防止することによって、親事業者の下請事業者に対する取引を公正ならしめるとともに、下請事業者の利益を保護し、もって国民経済の健全な発達に寄与すること」を目的に、大手発注者の横暴から下請業者を守るためのさまざまな規定が定められています。

下請法の規制対象となる具体的な取引としては、製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託の4種類があります。このうち情報成果物作成委託と役務提供委託は、近年のIT化などに対応するため2003年に改正された「改正下請法」において新たに加えられたもので、詳細については後に述べましょう。

フリーランサーも「下請法」で守られる

下請法の適用対象となる事業者の範囲は、親事業者(委託者)や下請事業者(受託者)の「資本金」と「取引内容」を基準に定められています。

まず取引内容が製造委託、修理委託、そして情報成果物作成や役務提供委託の一部の場合は、以下のようになっています。

 
親事業者の資本金 下請事業者の資本金
 3億円超  3億円以下(個人を含む) 
 1000万超〜3億円   1000万円以下(個人を含む)


一方、情報成果物作成委託、役務提供委託の場合(一部を除く)は、

 
親事業者の資本金 下請事業者の資本金
 5000万円超  5000万円以下(個人を含む) 
 1000万超〜5000万円   1000万円以下(個人を含む) 


となっています。

下請事業者には会社のほかにも個人事業主も含まれており、デザイナーやライターなどのフリーランサーも下請法上の下請事業者とみなされて、下請法によって守られています。

よくある口頭での発注は下請法違反

では、下請法は具体的にはどのような規制を親事業者に課しているのでしょうか。

下請法では、下請け事業者を不公正な取引から保護するために、親事業者に4つの義務と、11種類の行為の禁止を課しています。

このうち親事業者の4つの義務としては、書面の交付義務、書類の作成・保存義務、支払期日を定める義務、遅延利息の支払義務があります。

このうち書面の交付義務では、下請業者に業務を委託する親事業者は、委託後直ちに、給付の内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法等の事項など、下請法第3条で定める基本事項を記載した書面を下請業者に交付しなければなりません。

実は親事業者が下請業者に業務を依頼する場合は、「この前のやつをまた頼むよ」などと口頭で発注することが多いようですが、詳細な条件などがあいまいのまま後々トラブルが発生する原因となっています。そうしたトラブル防止のためにも発注書面の交付が必要なわけで、口頭での発注は下請法上は違法となるのです。

発注の取り消しややり直しは違法

次の「書類の作成・保存義務」では、下請業者に業務を委託した親事業者は、委託後、給付、給付の受領(役務の提供の実施)、下請代金の支払など、下請法第5条に定められた基本事項を記載した書類を作成し、保存しなければなりません。

また、「支払期日を定める義務」では、親事業者は、下請代金の支払期日について、給付を受領した日(役務の提供を受けた日)から60日以内で、かつ出来る限り短い期間内に定めなければなりません。そして、最後の「遅延利息の支払い義務」では、親事業者が支払期日までに支払わなかった場合、親事業者は給付を受領した日(役務の提供を受けた日)の60日後から、支払を行った日までの日数に年率14.6%を乗じた金額を、「遅延利息」として支払わなければなりません。

受領後の返品や代金の減額も禁止

一方、下請法に定める親事業者の11種類の禁止行為としては、受領拒否、下請代金の支払遅延、下請代金の減額、返品、買い叩き、有償支給原材料等の対価の早期決済、購入・利用強制、割引困難な手形の交付、不当な経済上の利益の提供要請、不当なやり直し等、報復措置などがあります。

このうち「受領拒否」では、親事業者は下請事業者に責任がないのに,給付(業務の納入)の受領を拒むことは禁止されています。また、「下請代金の支払遅延」では、親事業者は支払代金を定められた支払期日までに支払わななければなりません(「支払期日を定める義務」参照)。

さらに「下請代金の減額」では、親事業者は下請事業者に責任がないにもかかわらず、下請代金の額を減じてはいけません。また、「返品」では、親事業者は下請事業者に責任がないにもかかわらず、給付を受領した後、下請事業者にその給付にかかわる物を引き取らせてはなりません。

さらに、「買い叩き」では、親事業者は通常支払われる対価に比べて著しく低い下請代金の額を不当に定めることは禁止されています。ちなみに、強い立場の大手企業が消費税値上げに際して下請けの中小・零細企業に値上げ分の価格転嫁を拒むことはこの「買いたたき」にあたる可能性があり、「消費税転嫁対策特別措置法」はもちろん下請法にも違反するとみなされる恐れがあります。

助っ人販売員などを提供させるのも違法

さらに、親事業者の禁止行為のうちの「有償原材料などの対価の早期決済」では、親事業者は下請け業者に有償支給原材料等を自己から購入させた場合、その代金を支払期日より早い時期に支払わせてはなりません。

また、「購入・利用強制」では、親事業者は自己の指定する物を下請け業者に強制して購入させたり、自己の指定する役務を利用させたりしてはなりませんし、「割引困難な手形の交付」では、親事業者は支払期日までに一般の金融機関で割引を受けることが困難な手形を下請事業者に交付してはなりません。

さらに「不当な経済上の利益の提供要請」では、親事業者は自社のために、下請事業者に金銭や役務などの経済上の利益を提供させてはなりません。たとえば量販店などが下請け業者に無償の助っ人販売員などを提供させるのも、この不当な経済上の利益の提供の要請にあたる可能性があります。

また、「不当なやり直し等」では、親事業者は下請事業者に責任がないにもかかわらず、給付の内容を変更させたり、給付をやり直させてはなりません。

そして、最後の「報復措置」では、中小企業庁または公正取引委員会に対して下請事業者が、親事業者の上記の禁止行為を知らせたことを理由に、親事業者は下請け業者に取引停止などの不利益な取扱いをしてはなりません。

プログラムなどのコンテンツ作成も対象

2003年の下請法改正では近年のビジネス環境の変化を反映して、下請法の規制対象となる取引として、それまでの製造委託や修理委託にかかわる下請けにくわえて、「情報成果物」(ソフトウェア,映像コンテンツ,各種デザイン等)の作成委託、役務(運送、ビルメンテナンス)の提供委託、金型の製造委託なども下請法の対象と定められました。

さらに、違反行為があった場合の制裁も強化され、罰金の上限が最高50万円に引上げられるなどの改正が行われました。

この改正下請法により、「情報成果物」の作成、役務の提供、金型の製造作成などの下請け業務についても、下請法が適用されることになり、親事業者はこれらの業務委託に際して、書面の交付、書類の作成・保存、支払期日の制定、遅延利息の支払などの各種義務にくわえて、受領拒否、下請代金の支払遅延、下請代金の減額、返品、買い叩き、有償支給原材料等の対価の早期決済、購入・利用強制、割引困難な手形の交付、不当な経済上の利益の提供要請、不当なやり直し等、報復措置などの行為が禁じられることになりました。

通報者が特定されないように情報管理を徹底

 

下請法では、同法に定められた不正行為などを行った親事業者に対する罰則が定められています。違反者には、公正取引委員会や中小企業庁から警告や改善勧告が出され、会社名も公表されます。とくに書面の交付義務違反、書類の作成・保存義務違反、報告徴収に対する報告拒否・虚偽報告、立入検査の拒否・妨害・忌避などの違反に対しては、最高で50万円の罰金が科せられることになります。

   

このように下請け業者は、親事業者のさまざまな不正取引から下請け法によって守られています。中小企業庁は、下請事業者向けに「下請かけこみ寺」という相談窓口を全国に設けており、下請けいじめに悩む下請事業者の相談をいつでも受け付けています。

しかし、親事業者から仕事を請け負いたい下請け業者はいくらでもいます。仕事をもらう立場である下請け業者が発注元の親事業者に対して、「あの会社の行為は下請法に違反する不正行為だ」と当局に通報すれば、相手を怒らせてほかの業者に発注先を変えられてしまう恐れが高いことも否めません。

下請法では、こうした報復行為から下請事業者を守るため、親事業者は公正取引委員会などに報告したことを理由に下請け業者に不利な取り扱いをしてはならないと定められているうえ、当局へ情報を提供した下請事業者が発注者から特定されないように情報管理を徹底しており、通報者をしっかりと保護しています。

書式及び参考資料

注意事項

利用者の皆様に提供する回答は、弁護士の法的助言にかえることはできません。あくまで、ご自身の判断の一助にしてください。