法律の知って得するトピックス

平成26年4月25日

凶悪事件頻発の「脱法ドラッグ」は取り締まれるか?

「改正薬事法」が取り締まりの切り札に

「脱法ドラッグ」は麻薬や覚醒剤によく似た興奮、幻覚作用などをもたらす薬物で、麻薬や覚醒剤と同じような化学物質を含みながら、成分の化学式を微妙に変えることで、違法薬物に指定されずに法的取り締まりを免れている薬物のことをいいます。

脱法ドラッグが問題化したのは5年ほど前からで、法的に取り締まれないことで「合法ハーブ」「アロマ」「お香」などと称し、繁華街やインターネットで堂々と売られてきました。使用しても「罰せられることはない」という安心感や値段も数千円と安いため、若者を中心に気軽に使用する人が急増しています。

しかし、脱法ドラッグは麻薬や覚醒剤と同じような錯乱、意識障害、けいれん、呼吸困難、脳障害などといった深刻な健康被害を引き起こすおそれもあり、救急車で搬送されたり、死亡するケースが相次いでいます。さらに、健康被害に加えて犯罪面での問題も浮上。警察庁によると、2013年上半期の脱法ドラッグにからんだ摘発件数は前年同期比約3倍増の51件に上っており、脱法ドラッグを使用した若者などが引き起こす事件や事故が後を絶ちません。

たとえば今年2月には、福岡市の天神で脱法ドラッグで錯乱した男の車が赤信号で停車している車の列に体当たりして多くの負傷者を出したり、2012年には女性を死亡させてしまったケースもあります。また、同じ年に脱法ドラッグを使用した男が都内の小学校に侵入して児童を追い回す事件も発生しました。

さらに、脱法ドラッグは本物の麻薬や覚醒剤、大麻などに手を出す「入り口」になっおり、「ゲートウェイドラッグ(入門薬)」とも呼ばれて、未成年者を中心に乱用の広がりが問題となっています。約5万4000人の中学生を対象に行われた調査では、120人が「脱法ドラッグを使った経験がある」と回答、うち6割は覚醒剤の使用経験があったという結果も出ています。

製造側とのイタチごっこに終止符

脱法ドラッグの取り締りを巡っては、禁止薬物指定を逃れるため、新しい禁止成分が指定されるたびに化学式を少し変えた新種が次々に登場、取り締り側とのイタチごっこが続いてきました。

こうした状況下で、厚生労働省は脱法ドラッグ対策強化のため、麻薬や覚醒剤に似た興奮・幻覚作用を持つ個々の成分に加えて、成分構造が似ている物質をまとめて規制対象とする「包括指定」を定めた省令を昨年12月に公布し、今年1月から施行。現在約1400種が薬事法に基づく「指定薬物」に指定され、製造、輸入、販売などが禁止されています。

しかし、これまでの法律では、処罰の対象は製造、輸入、販売などを手がける提供者側だけになっており、使う側は罰せられないため、いぜん使用者が後を絶ちませんでした。このため、昨年末に新たな薬事法改正案が国会で可決。今月4月に施行されました。

今回の改正薬事法では、これまでは業者に対する取り締まりが中心だった指定薬物に関する規定を改め、販売者だけでなく使用者も取り締りの対象となりました。医療や研究目的等の用途以外での指定薬物の所持や使用、購入、他人からの譲り受け等の行為が処罰の対象となり、3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科せられることになったのです。

一方、指定薬物を製造・輸入・販売等をした者には、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金という厳しい罰が科せられます。

警察庁が取締強化を全国の警察に指示

近年脱法ドラッグが引き起こす事件や事故が社会問題化する中で、法的整備が不十分なこともあって警察はこれまでいま一つ積極的な取り締まりを行うことができませんでした。しかし、今回の薬事法改正によって、これまでの「脱法ドラッグ」がもはや脱法ではなくなり、違法指定薬物となったことで、取り締まりの最大の武器を得た警察は今後脱法ドラッグの取り締まりに本腰を入れ始めるものとみられています。

すでに今年4月の施行をにらんで、警察庁は脱法ドラッグを扱う店舗の集まる繁華街などを中心に脱法ドラッグの所持や使用の取締まりを集中的に行うように全国の警察に指示。警視庁が指定薬物専従捜査班を設けるなど、各警察が捜査態勢を強化。

昨年11月に東京の脱法ドラッグ大規模製造工場が摘発された事件を受け、今年2月には警視庁をはじめとする5府県警や関東信越厚生局麻薬取締部などが、麻薬取締法違反容疑で同工場と取引していた脱法ドラッグ店に対する全国規模の一斉捜索を行うなど、4月の改正法施行に向けて早くも動き出しています。

麻薬取締官も取り締まりに参入

また、従来は法律上の制限によって麻薬取締官(厚生労働省)は指定薬物の取り締まりを担当することができませんでした。しかし、昨年5月に警察官だけでなく麻薬取締官らにも指定薬物の捜査権限を持たせる改正薬事法が議員立法で成立。麻薬取締官も脱法ドラッグの取り締まりに加われるようになり、指定薬物取り締まりが強化されました。

このように今回の法律面での一連の改善によって脱法ドラッグを規制する法的基盤が整ったことで、今後脱法ドラッグに対する取り締りは格段に強化されるものとみられています。そして、これまで「違法ではない」という理由で安易に脱法ドラッグに手を出していた若者らに対する抑止効果によって、脱法ドラッグの蔓延に歯止めがかかることが期待されています。

くわえて、今回の使用側に対する罰則の新設によって脱法ドラッグを入り口とする麻薬や覚醒剤、大麻などの需要が減少すれば、それらを資金源とする暴力団に対しても打撃を与えることができることで、今回の規制強化は効果が大きいということができるでしょう。

書式及び参考資料

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